2回目のバレンタイン



「なんとか、形にはなったかな…」


私の前にはやや不恰好なハート型のチョコレート。
これでも一生懸命作ったんだけど、やっぱり料理、特にお菓子は難しい。

錫也に教えてもらえばもうちょっとマシになったかな…。

でも、大好きな人にあげるものだからどうしても自分の力だけで作りたかった。


味は問題ない。…多分。


「あ、いけない!もうこんな時間!」

時計を見ると、待ち合わせの時間が迫っていた。
これから颯斗君とデートなのに、まだ部屋着にエプロンのままだ。

失敗に失敗が重なって直前までチョコが出来ないなんて…。

思わずチョコを見つめたまま立ち尽くしてしまう。


しかし、後悔している暇はないので、手早くラッピングを済ませると慌てて出かける支度を始めた。


***


「遅かったですね。心配したんですよ?」


慌てた割には服も髪型も決まらなくて、随分時間を食ってしまった。
携帯が鳴っていたのは分かってたけど、バッグから取り出す時間も惜しかったから、結果的に何の連絡もなしに遅刻してしまったことになる。


「ご、ごめん…な…さい」


久々に全速力で走ったから大分息が上がっていた。
肩で呼吸をしながら何て言い訳しようか必死に考えを巡らせるけれど、いい案が浮かばない。
手作りチョコを失敗し続けたから遅れましたなんて恥ずかしくて言えない。


「ほら、マフラーが…」


颯斗君が少し屈んで解けたマフラーを直してくれる。
前髪も乱れていたようで、指先が額に触れた。
なんだかそれが小さな子供にするみたいで、嬉しいけどどこか面白くない。


「もう、子供じゃないんだから大丈夫だよ…」


遅刻のことは忘れて思わず小声で抗議してしまう。


「ふふっ、申し訳ありません。あなたがかわいいものですからつい、世話を焼いてしまいます。」


せっかくのバレンタインなのに、チョコの失敗から始まり、遅刻、子供扱い、何だかあんまりうまくいってるようには思えない。
こんなはずじゃなかったのに…。
ちゃんと渡せるかな…。

湧き上がった不安もごく自然に握られた手の温もりにかき消され、私は歩きだした。



***


さっき会ったばかりだと思っていたのにもう帰らなければいけない時間になっていた。

本当はまだまだ一緒にいたい。

楽しい時間ってあっという間だな…。
ずっと一緒にいられたらいいのに…。

でも、今日はここからが本番だ。
バレンタインチョコを渡すのは緊張する。
特に今回は手作りだから余計に。


「あ、あの、颯斗君…今日、バレンタインだから…チョコ…作ってきて…」


ドキドキしながら紙袋を差し出す。
さっきまで普通に話せていたのに、うまく言葉が出てこない。

「ありがとうございます。その紙袋、いつ渡していただけるのかと思って、待ってたんですよ?」

颯斗君はクスクスと笑いながら、チョコが入った紙袋を受け取ってくれた。

去年も同じようなことを言われたのを思い出した。
もしかして、ずっとチョコのことを気にかけていたのかと思うと、なんだかくすぐったい気持ちになる。


「開けてみてもいいですか?」


「…うん」

颯斗君がラッピングを外し、チョコレートを取り出す。
改めてもっと練習しておけばよかったと思ったけど、今更言っても仕方がない。


「手作りにしてみたんだけど…失敗しちゃって…ごめんね」

「いえ、とても…嬉しいです。今年もハート型なんですね」


だんだん恥ずかしくなってきて、俯いてしまう。
この流れって…なんだか…。


「もちろん、食べさせていただけるんですよね?」

やっぱり…。
私の予感は的中した。


「えっ!た、食べさせるって…」


去年のバレンタインを思い出してしまい、顔が赤くなっていくのが分かった。
あんなこと、外じゃ出来ないよ…!


「普通に食べさせていただければ結構ですよ?それとも、去年のようなのがお好みですか?」


颯斗君の声が少しだけ意地悪になる。
私の顔を赤くさせる為に言っているとしか思えないけど、結局いつも颯斗君のペースになってしまう。


「…もう!そんなこと言うと食べさせてあげないよ?」


口ではそう言いながらも既にチョコを箱から取り出している。
そういう部分も含めて颯斗君のことが好きなんだなと、改めて思う。


「それで、僕はいつ口を開ければいいんしょうか?」

「えっ?」


チョコを持ったまま固まってしまう。
颯斗君が言いたいことはすごく分かるけど…やっぱり…恥ずかしい。
どうしよう…でも言わなきゃ食べてくれそうにないし…。


「そのままだとチョコが溶けてしまいますよ?」


だめだ、この人には逆らえない…。
諦めと恥ずかしさが入り混じった複雑な気持ちになる。


「はい、あーん…」


背伸びをして、おずおずとチョコを差し出す。


「…っ!!!」


その瞬間、指ごと口に含まれた。
指先に予想していなかった感覚が走り、肌が粟立つ。


「は、颯斗君…っ…!」


消え入りそうな声で抗議をするも、指先はなかなか解放されない。
舌が指先に触れるたびに、体がびくりと跳ねそうになる。


「っ…あっ…!」

チュッと軽く吸われて、ようやく唇から指先が解放された。
なんだか頭がぼーっとする。
そのまま腕を引かれて、ギュッと抱き締められた。

この状態じゃ顔なんて見られそうもなかったし、大人しく腕の中に収まる。


「チョコが指についていたものですから…。せっかく作っていただいたのに、勿体無いでしょう?」


「そういう問題じゃないよ…」


恥ずかしくて颯斗君の胸に顔を埋める。
結果的にこちらからも抱き締め返す形になってしまって、またドキドキが大きくなった。


「今年手作りをいただけたということは、来年も期待していていいのでしょうか?」


颯斗君はクスっと笑うと私の顎に手をかけて、上を向かせる。


「来年は、もっと甘い物を期待してますね?」

「もっと甘い…?」


もっと甘い物って何だろう?
言葉を最後まで待つことなく、私の唇は塞がれた。

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バレンタインです。
ゲームの次の年っぽくしよう!と思ったはいいものの、じゃあまだ在学中だから台所とかないよなぁとか
そもそも来年は休日なのかとか色々出てきましたが、細かいことは気にしないで下さい。