跳ね上がった心音が聞こえていませんように。
時計の秒針と、そして二人分のペンを走らせる音。
放課後の生徒会室で私は目の前の課題と格闘していた。
授業で出された課題が予想以上に難しく手こずっていたら、見かねた颯斗君が手伝ってくれることになった。
神話科の内容も絡んでいるし助かったんだけど…。
今日は生徒会の活動はお休みの日で、広い部屋には私達しかいない。
正直言って、二人っきりなのは少し緊張する。
これまでに何度もあったはずなのに、何となく意識してしまうようになった。
いつからだろう…。
視線は資料に落としながらも、ぼんやりと思いを巡らせる。
生徒会の中では、私の一番近くにいる人。
いつだって優しくて、困った時には助けてくれて、物静かだけど頼れる人。
でも、今ではそれ以外の気持ちが胸の奥底にあるような気がする。
颯斗君…睫毛長いな…
女の子みたいにきれいな顔をしてるのに、背は高くて、手だって白くてきれいなのに、私よりずっと大きい。
「どうかしましたか?」
颯斗君が不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
知らず知らずのうちに見つめてしまっていたらしい。
何となく恥ずかしくなって弾かれたように俯いてしまう。
「えっと、な、何でもないよ!…あっ!」
赤くなった顔を誤魔化すように近くにあった本を取ろうとして、うっかり筆箱を落としてしまった。
床に中身が散らばり、拾おうとして慌てて屈む。
「大丈夫ですか?」
颯斗君も立ち上がり、散らばったペンを拾ってくれる。
「だ、大丈夫…!ごめんね…!」
「いえ、気になさらないで下さい」
どうしてこうなんだろう…。
ふと、指先と指先が触れ合った。
たったそれだけのことなのに、電流が走ったかのような感覚を覚える。
びくりとして顔を上げると、本当に近くに颯斗君の顔があり、どうしていいか分からなくなる。
このタイミングで、この距離は、まずい。
鼓動が早くなり、顔が熱くなっていく。
「あっ…あの…」
「はい、拾い終わりましたよ」
そんな私の様子など全く意に介さない様子で、颯斗君が立ち上がる。
気付かれてないのなら、いいんだけど…。
自分ばかりすごく意識しているのは、ちょっと恥ずかしい。
ホッとした瞬間、目の前に手が差し出された。
「どうぞ?」
「えっ…」
おそらく、というか確実に掴まって下さいということなんだろうけど…。
やっぱりこのタイミングで、これは、まずい。
手を取るべきか取らぬべきか躊躇しているうちに、ぐっと腕を引かれて自然と私は颯斗君の腕の中に抱かれるようになっていた。
「あなたは少しそそっかしい所がありますから、見ていて心配になります」
颯斗君の体温を間近に感じて、私の心音は一層跳ね上がった。
こんなに近かったら、聞こえてしまうかもしれないというくらいにドキドキしている。
「き、気をつけます…」
消え入りそうな声で返事をして、どうにか席に戻る。
相変わらず鼓動が治まってくれる気配はなく、課題に集中出来そうにない。
「見ていて飽きない、というのもあるんですけどね」
クスっと笑いながら言う颯斗君の声に、更に課題の完成が遠のいた気がした。
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付き合う前的な。
指と指が触れ合うことをラブショックと名付けたい。