雪の降る中で


「降ってきましたね…」

颯斗君の声で私も顔を上げ、窓の方を見る。
今朝方から冷え込むと天気予報で言っていて、確かに寒かったのだけれど、まさか雪まで降るとは思わなかった。
と言うのも、季節はとうに春で桜まで咲いているのだ。

「今日は早めに切り上げて帰ろうか。」

丁度作業も一段落着いたところだったので、手元の書類を整理して立ち上がる。

「それがいいかもしれませんね。」

颯斗君もそう言い、二人で帰り支度をして生徒会室を後にした。


「…さむっ!」

外に出ると、まるで冬が戻ってきたかのような寒さだった。
春の暖かい空気に慣れ始めていたので、実際の冬よりも寒く感じ、思わず自分で自分を抱くようにして身を竦める。


「大丈夫ですか?すみません、何もお貸しできそうな物がなくて…」


「大丈夫だよ。最近暖かかったら、余計に寒く感じるのかも。」


そんなつもりで言ったのではないのに、申し訳なさそうな颯斗君を見てかえってこちらが恐縮してしまう。
でも、そんな彼の優しさが嬉しくもある。


「四月に雪なんて珍しいね」


生徒会室を出た時はチラチラと舞う程度だったのに、いつの間にか本格的に降り始めていた。
四月の雪は大雪になると、どこかで聞いたことを思い出す。

手もすっかりかじかんでしまい、息を吹きかけて暖める。


「では、こうしましょうか」

その様子を見ていたのか、颯斗君が私の手を取り、指を絡める。

「繋いでいた方が、少しは暖かいでしょう?」

「…うん」

颯斗君の手も同じように冷たかったけれど、すぐに繋いだ部分から熱が伝わり、溶け合った。
体温だけじゃなくて、気持ちが溶け合っていく気がする。
未だに手を繋ぐことだって少し恥ずかしい。
でも、颯斗君に触れているだけでこんなにも暖かくなれる。

やっぱり私はこの人のことが大好きなんだな…。

「ふふっ…」

そう思ったら自然と笑みがこぼれてしまった。


「どうかしましたか?」

「ううん、何でもないよ」


それから、私達は他愛のない話をしては笑い合い、気がついた時には寮の前にいた。
一緒にいると時間の流れがとても早い。

互いの間に一瞬沈黙が訪れる。

「それでは、また明日学校で…」

…また明日。
明日また会えるけど、もう少しだけ一緒にいたい。
私がさよならを言ったら今日の時間は終わってしまう。

別れの言葉を言うのを躊躇していると、颯斗君の肩にうっすらと雪が積もっていることに気付いた。

「あ、颯斗君、雪が…」

鞄から慌ててハンカチを取り出す。
少しでも一緒にいられる口実を見つけられて何となく嬉しくなった。


「風邪引いちゃ…きゃっ!」


肩に手を伸ばした瞬間、強い力で引き寄せられる。
足元がふらついたけど、すぐにしっかりと抱きとめられた。


「は、颯斗君…?」

「すみません…つい…」

「…う、嬉しいけど…」

突然の出来事に驚きつつも、すぐに颯斗君に体を預ける。
一緒にいたいのが私だけだったらどうしようなんて不安はすぐに吹き飛んでしまった。

「本当は、もっと弁えなければいけないのでしょうけど…あなたを前にすると歯止めが利かなくなってしまいます。」


颯斗君は私が真っ赤になるようなことを言うのがとても上手い。

何気なく発する言葉が私の鼓動を早くして私の頬を上気させる。


「キス…してもいいですか…?」

そう言うと、既にひんやりした手が私の頬を包んでいた。
颯斗君の長い睫毛が触れそうなくらいに距離が近付き、程なくして唇が触れた。

触れた瞬間は冷たいのに、溶けてしまう雪のようなキス。

まるで溶けてしまうことを恐れるかのように一瞬離れたけれど、程なくして今度はもっと長く口付けられた。
雪はしんしんと降り続け、世界から音を奪う。

音のない世界で、たった二人きりになってしまったような、そんな錯覚すら覚えた。


「いけませんね…どうしてこんなに欲張りになってしまうのでしょう…」


それは私もだよ、と言う代わりに、今度は私から少し背伸びをしてキスをした。


四月の雪も、悪くないかもしれない。


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日頃から下品なことばかり考えているのに雪がどうのとか軽く死にたくなりますが
それを言ったらこのサイトはないので頑張ります。
四月の雪って大雪になるよね。