無自覚の罪
君は一体、どれだけ僕を煽れば気が済むのかな。
日曜の夜、デートの後。
場所は彼女の家のドアの前。
今日は朝から二人で出かけて、映画を見たり買い物をしたり、他愛ない話をしているうちにすっかり遅くなってしまった。
なるべく早い時間に帰すようにしていたのに、携帯の時計を見ると、既に日付が変わりそうな時刻を示していた。
「それじゃ、僕は帰るから。ちゃんと戸締りしなよ」
少し素っ気無いかと思えるくらいの調子で言い、踵を返そうとした時だった。
若干後ろに引っ張られるような感覚があり、思わず振り返る。
そこには僕の服の袖を掴んで、こちらを見上げる彼女の姿があった。
「あっ…ち、ちがうの…!」
何が違うのかよく分からないが、僕と目が合うと、パッと手を離して俯いてしまう。
その仕草がたまらなくかわいらしくて、このまま持ち帰りたくなる。
この状況だと家の中に押し入って朝まで離さない方が遥かに効率的だけど。
僕の気も知らないでよくやるよ。
ちょっと、お仕置きが必要かな。
「何がどう違うのかな?」
離された手をすかさず掴み、ぐっと距離を縮める。
頬に手をかけ、上を向かせると既に彼女の顔は真っ赤になっていた。
これだから、いじめ甲斐があってやめられない。
「ほら、言ってごらんよ」
更に顔を近づけ、耳元で囁く。
「だって…今日…まだキス…してないから…」
ごく小さな声で呟くのが聞こえた。
確かに、今日はキスをしていない。
でも、このタイミングで言うのは反則じゃないかな。
彼女は恥ずかしがりやの割りに、こうして時々大胆になることがある。
その度にこっちがどれだけ我慢してるか分かってるんだろうか。
分かっててやってるのだとしたら、とんでもない小悪魔だ。
まあ、この顔を見る分には全く分かってなさそうだけど。
「してないから、何?何でもないなら、僕は帰るけど?」
「な、何でもなくないよ…」
「だったら何?言わなきゃ分からないよ?」
一つ一つの反応が、彼女の唇から紡がれる言葉が、全て僕の衝動をかき立てる。
いつもなら頭の一つでも撫でて家に帰しているところだけど、今日はちょっと、自信がない。
「キス…してほしい」
言い終えるか終えないかのうちに、僕は強引に彼女の唇を塞いでいた。
触れるだけのキスじゃ済まない。
「んっ…ふっ…ぁっ…」
深く口付ければ口付ける程、理性の箍など容易く外してしまえそうなくらい彼女の唇は甘かった。
時折漏れる吐息すら、ひどい甘さを伴っていて、もっと深く求めてしまいたくなる。
彼女の体から徐々に力が抜け、腕の中に落ちてくる。
しっかりと抱きしめながら、更に唇を貪った。
「…っ、郁…ぁっ…くるし…」
どれくらいそうしていたのか分からなかった。
呼吸も忘れてキスに溺れてしまいそうになった時、彼女の声が聞こえ、どうにか唇を離す。
余裕などとっくになくなっていて、自分でもみっともないと思う程彼女を欲していた。
ここまで僕を煽ったんだから、それなりの代償は支払ってもらう。
後ろ手にドアに鍵をかけた音が、やけに大きく響いた。
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またやるのか!
個人的に事前事後が一番萌えます。
だから中身はあってもなくてもいいです。あればあったでいいんですけど。