水中で

「あの…郁…やっぱり…その…」

少し身じろぎをすると、パシャリとお湯が跳ねる音がした。

私達は、バスルームにいた。
入浴剤のいい香りと湯気が室内に充満している。

郁の提案で一緒にお風呂に入ることになった…のはいいんだけど。
本当はよくないけど、つい流されてしまった。

自宅の浴槽は二人で入るには少し小さくて、私は丁度郁の足の間に収まるような格好になっている。


「どうしたの?もしかして、恥ずかしい?」


もじもじしている私の様子を見て、郁がからかうように聞いてくる。

分かってるくせに…。

結婚したとは言え、一緒にお風呂に入るというのはやはり恥ずかしい。
お湯の温度は低めのはずなのに、のぼせそうになってしまう。

後ろから郁に抱きかかえられているので、背中に感じる体温が余計に私をドキドキさせる。


「ねえ?顔上げてよ?」

上げたくても、上げられない。
首を横に振るのが精一杯だった。


「仕方ないなぁ…」


私が絶対に顔を上げないというのが分かったのか、諦めたような声がする。


「きゃっ…」


次の瞬間半身を捻るように腕を引かれ、私の目の前に郁の顔があった。


「あっ…あ…」

あまりにも距離が近くて、固まってしまう。


視線を逸らすことも俯くことも出来ずにいると、突然唇を塞がれた。
反射的に逃れようとするが狭い浴槽の中ではそれも叶わず、結っていた髪が解けただけだった。

「はぁっ…んっ…!」

呼吸が苦しくなり空気を求めて口を開くと、今度はその隙間から舌を割り入れられた。

水音と互いの荒い呼吸が浴室内で反響して、やけに大きく聞こえる。
全身の熱が高まる一方で、力は抜けていき、郁の腕の中に体を預けるしかなかった。


「ふふ…力抜けちゃった?」


「…馬鹿」

荒い呼吸を整えようと一際大きく息を吸い込むと、再び深く口付けられる。
いつの間にか私の腕も郁の体に回されていた。

きっと私達は、呼吸をするのと同じくらいお互いを必要としている。
混ざり合っていく体温と吐息を感じながら、私はやがて理性を手放した。

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すんませんアウトですね。
2010年は旦那様だしいいか!